代表者の一言
令和5年4月代表者の一言
新年度が始まって1か月。初めの頃こそ、園児の皆さんに入園・進級による不安や戸惑いが見られましたが、各施設の先生方が遊びを工夫して楽しい時間づくりに努めた結果、今では、新しい環境になじみ、可愛いらしい笑顔がたくさん見られるようになりました。
今年は、例えば入学式や入社式のニュース等で、ChatGPTの話題を耳にします。東大総長の祝辞や岸田総理の国会答弁などでも話題となりました。そこで、そのものの存在と社会的影響に関して理解を深めようと、改めて調べ学ぶ時間を取ってみました。職業柄もあり、これまで自ら利用する機会はほとんどありませんでしたが、このAIがもたらすと思われる、ビジネス社会や人間に対して与えるであろう想像を超える影響に、大きな衝撃を受けました。昨年11月にリリース後、僅か2か月で1億人の利用者を獲得したと言われており、その加速的な拡がりに私たちの生活が追いついていけるのか、脅威すら感じてしまいました。これまでのデジタルサービスは「他人事」として受けとめていても許されましたが、これは、各々が「自分事」として受けとめる必要があると考えざるを得ませんでした。
ChatGPTの特性とその課題は、ビジネス分野と教育分野に大きく分かれるものと思います。ビジネス分野においては、効率性・生産性を向上させ、より精度の高い成果物が創出できるうえ、時間やスペースが省け、労働者の余暇が確保できるようになるなど、利便性が高まる要素が多いと感じます。他方、教育分野においては、多くの課題が生じるでしょう。私達は、保育の現場で、子ども達の多くの経験や体験を導き、子ども達の発達に伴い「できたよ」「がんばったよ」という体験から、自信を持ち、自らの創造力を培い、子ども達が本当に進みたい道を自分自身の力で選択できるように支援しています。まだ経験の少ない年齢からChatGPTを使って、僅かなキーワードで答えが求められてしまったら、自らの思いや、志向との関係性が希薄なものとなり、自発性を失ってしまうのではないか、との懸念があります。また、受験生や大学生の場合でも、あるテーマについて多面的に調べたり、複雑で専門的な分野について調べ引用したり、繰り返し学習をするときには便利ですが、表示された情報を考察なく鵜呑みにするとすれば、「画一性」が増長され、人間性の欠落に拍車がかかる懸念もあると思います。この僅か数か月の中で、欧米では、使用を禁止・規制をかける動きも始まりました。私達が、今大事にするべきことは、テクノロジーを、人間らしさ、志向、生きる価値をより重視しながら受容することだと考えます。「子育てには答えがない」と従来から言われているとおり、子ども達を取り巻く環境については、マニュアルや方程式で「決めつけ」をしないように留意しなければなりません。子ども達の可能性は、さまざまな環境から作動する自らの感触や感情的な経験、体験によって引き出されるものであって、少ないキーワードで抽出され、経験したこともなく、学習したこともなく、自らの脳を使って発出したものではない多くの答えによって引き出されるものではありません。子ども達の脳をより一層成長させるためには、より「人間的」な多くの引き出しを自ら持てる体験ができる環境を、我々保育者が整える必要がある、そのように思っています。これからは、人間らしいアクティブラーニングを重視した教育活動も必要になってくるでしょう。
ChatGPTなどがけん引することで、本年以降はより急速な技術革新がなされるように思います。そして、このような時代の変化の中では、テクノロジーを享受する一方で、人間とはどういうものか、「幸せ」「平和」「生きていることの素晴らしさ」を子ども達にきちんと伝えていかなくてはなりません。社会の変化を正しく受けとめるには、その前提として、保育現場での環境から作動する人格形成の基盤の構築がなされることが必要です。大切にすべき価値観を有して、技術と共存共栄できる人になるための保育の追求も、新たな保育事業者の課題と受けとめます。
子ども達が、自らを信じ、自らの意思をもち、自信をもって何事にも挑戦する力を育むことができるよう、本年度も「子ども第一主義」の保育に努めて参ります。
小鳩グループ代表 山本 育子
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